東京地方裁判所八王子支部 平成10年(ワ)2393号 判決 2000年10月17日
原告
長野令子
ほか三名
被告
金子武
ほか二名
主文
一 被告らは各自原告長野令子に対し金一八九万〇五二六円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自原告岡田仁美に対し金二八万七七二八円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは各自原告上杉里美に対し金二八万七七二八円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは各自原告長野哲郎に対し金二八万七七二八円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。
七 この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは各自原告長野令子に対し金三二六四万二一六八円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自原告岡田仁美に対し金一〇三六万九一二六円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは各自原告上杉里美に対し金一〇三六万九一二六円及がこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは各自原告長野哲郎に対し金一〇三六万九一二六円及びこれに対する平成九年一月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は被告らの負担とする。
六 仮執行宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 平成九年一月二一日午後七時三〇分ころ
(二) 場所 東京都稲城市東長沼一三七八番地先路上
(三) 加害者 被告金子武(以下「被告金子」という。)
(四) 被害者 亡長野重久(以下「重久」という。)
(五) 事故の態様
被告金子は、被告株式会社紀伊国屋(以下「被告会社」という。)所有の普通乗用自動車(以下「加害車両」という。)を運転して(二)記載の道路上を走行中、右車両の正面部を同所を横断歩行中の重久の右側部に強く衝突させて跳ね飛ばした。
2 被告金子の過失
被告金子は、前方注視義務があるにもかかわらずこれを怠り、夜間であるのに交差点で信号待ちのため一時停車した後前照灯を点灯しないまま発進させ、前方を横断中の重久に気づかず漫然と自車を走行させたものであるから、同被告には前方注視義務違反がある。
3 被告らの責任
(一) 被告金子は、加害車両の運転者であり、前記過失により本件事故を起こしたものである。
(二) 被告会社は、被告金子の使用者であり、本件事故は被告金子が取引先から被告会社に帰社する途中で起こしたものであって、被告会社の業務執行中の事故といえるから、被告会社には、民法七一五条に基づく責任がある。
(三) 被告関東自動車共済組合は、被告会社と締結した自動車損害保険契約に従い、原告らに直接損害を填補すべき義務がある。
4 重久の傷害及び治療経過
(一) 重久は、本件交通事故により、急性硬膜下血腫、脳挫傷、外傷性脳内血腫、右足関節脱臼骨折の傷害を負った。
(二) 重久は、本件事故直後、開頭血腫除去手術を受け、同年六月、右頭硬膜下血腫の再手術を受け、次のとおり入院及び通院治療を続けていたが、平成一〇年一〇月二一日、疾病(癌性腹膜炎)のため死亡した。
平成九年一月二一日から二月二一日まで(三二日間) 聖マリアンナ医科大学病院に入院
平成九年二月二一日から同年四月三〇日まで(六九日間) 麻生病院に入院
平成九年六月一七日から六月二九日まで(一三日間) 麻生病院に入院
以上入院日数合計一一四日間
平成九年五月一日から同年六月一六日まで及び同年七月一〇日から死亡まで通院(うち、平成一〇年五月六日までの実通院日数五七日間)
5 後遺障害
重久には後遺症として脳挫傷に基づく運動障害、記憶障害、言語障害があり、自宅内の日常行動は一応できるが、自宅外の行動は困難で、随時他人の介護を必要とし、読み書きや他人との会話ができない状態にあった。右後遺症は、後遺障害別等級表第二級に相当する。
6 相続
重久は、平成一〇年一〇月二一日死亡し、妻である原告長野令子(以下「原告令子」という。)、子であるその余の原告らが、法定相続分に従い、重久の損害賠償請求権を相続した。
7 損害
(一) 重久固有の損害
(1) 治療費
(2) 付添看護費
原告らは、医師の指示により、重久の入院期間中交代で勤務を休み、重久の付添いをした。
一日六〇〇〇円×一一四日=六八万四〇〇〇円
(3) 通院付添費
原告らは、重久が独力で通院できない状態であったため、必ず車を運転して通院に付き添った。
一日三〇〇〇円×五七日=一七万一〇〇〇円
(4) 入通院交通費 二万四四〇〇円
交通費は一回あたりのガソリン代四〇〇円、回数は、入退院のため四日、通院のため五七日の合計六一日である。
四〇〇円×六一回=二万四四〇〇円
(5) 既発生の介護料
重久は、本件事故による後遺障害のため、常時介護を要する状態になった。本来ならば、平均余命までの将来の付添費(介護料)を請求すべきところ、前記のとおり、重久が本件交通事故による体力低下も原因のひとつとして、平成一〇年一〇月二一日死亡したため、最後の通院日の翌日である平成一〇年五月七日から死亡日まで一六八日間の介護料を請求する。
一日六〇〇〇円×一六八日間=一〇〇万八〇〇〇円
(6) 入院雑費 一四万八二〇〇円
一日一三〇〇円×一一四日=一四万八二〇〇円
(7) 休業損害ないし逸失利益
重久(大正一四年三月九日生)は、本件事故当時七一歳であったが、平成八年一〇月、自営業(服地販売業)を廃業し、在庫整理、販売等を行っていた。重久は、本件事故がなければ、整理業務を継続したうえ他の職に就くことも十分可能であったが、本件事故により整理業務は不可能になり、労働能力も一〇〇パーセント喪失した。重久の本来の休業損害及び逸失利益は、賃金センサス第一巻第一表の産業計全労働者七二歳の平均年収三六九万九四〇〇円の八割である二九五万九五二〇円を平均余命の半分の五年にわたり得たとする場合の金額一二八一万二九四五円であるが、前記のとおり、重久は平成一〇年一〇月二一日死亡したため、本件事故以後死亡まで二一ヶ月分の休業損害ないし逸失利益五一七万九一五九円を既発生の損害として請求する。
二九五万九五二〇円×二一ヶ月分÷一二=五一七万九一五九円
(8) 入通院慰謝料 三五〇万円
重久は、本件交通事故により前記傷害を負い、入院一一四日、通院一五ヶ月の治療生活をした。これに対する慰謝料は三五〇万円を下らない。
(9) 後遺症慰謝料 三五〇〇万円
重久は、本件交通事故により前記のとおり、後遺障害別等級表第二級に相当する後遺障害を負い、とりわけ、記銘障害、言語障害のため読書きができず他人との会話もできず、また、脳内に血腫、水腫ができ再手術をし、恒常的に偏頭痛や手足のしびれ感に苦しんだ。さらに、重久は、癌性腹膜炎を直接の死因として死亡したものであるが、本件交通事故による体力低下特に脳挫傷による障害のため、肺にたまった痰を体外に排出することができず、肺機能が低下し、肺炎により体力が衰弱し、以上よりして適切な時期に外科的手術による癌の除去が行えなかった。すなわち、本件交通事故による障害がなければ、適切な時期に手術を受けて癌を切除するなどして、余命を延ばすことが期待できた。
以上のような事情よりすれば、後遺障害に対する慰謝料は三五〇〇万円を下らない。
以上(2)から(9)の合計は四五七一万四七五九円である。
(10) 弁護士費用 四五〇万円
(二) 原告ら固有の損害
(1) 原告令子の休業損害、逸失利益
原告令子は、タクシー運転手として稼働し、家計を支えていたところ、重久の看護のため休業せざるを得ず、収入が激減した。
平成八年 三八〇万三一〇二円 (月平均三一万六九二五円)
平成九年 二四二万〇四九三円 (月平均二〇万一七〇七円)
原告令子の休業損害は、平成九年一月から平成一〇年一〇月まで、右差額月額一一万五二一八円の合計二五三万四七八九円となる。
(2) 慰謝料
イ 原告令子の慰謝料 五〇〇万円
原告令子は、重久との婚姻生活の中で家事育児を行い、稼働して家計を助けてきた。子らもほぼ独立し、夫重久とともに余生を楽しみかけた矢先、重久が本件事故に遭って独力での生活が困難になり、回復しないまま死亡してしまったため、原告令子もまた、右のような経過でともに余生を過ごすべき夫を失い、その心痛は計り知れない。これに対する慰謝料としては五〇〇万円を下らない。
ロ その余の原告らの慰謝料 各二〇〇万円
その余の原告らの父重久は、前記のとおり、本件交通事故にあって前記傷害、後遺障害を負い、回復しないまま癌により死亡した。特に、原告長野哲郎においては、平成一〇年一〇月二三日に挙式の予定であり、重久も楽しみにしていたが、その直前死亡したため、結婚式も延期となった。
本件交通事故により、子らであるその余の原告らも多大の精神的苦痛を被ったが、これを評価すると各自二〇〇万円を下らない。
(三) 各原告の損害額は、重久の損害にそれぞれの相続分をかけた額に、固有の損害を加えたものである。
原告令子の損害 三二六四万二一六八円
その余の原告らの損害 各一〇三六万九一二六円
なお、後記被告の主張3のうち既払額については、あらかじめ損害額から控除してある。
二 請求原因に対する認否及び被告らの主張
請求原因1、3の事実は認め、同2のうち被告金子に過失があることは争わず、同4のうち重久が受傷したことは認めるが、その内容、程度、治療状況は知らない。同5、7は知らない。
(被告の主張)
1 過失相殺
本件事故現場は、見通しのよい片側二車線、巾員一六メートル、中央分離帯のある交通頻繁な幹線道路(川崎街道)上で、現場の南側歩道(五・七五メートル)と車道との間には植込みが設置されている。また、右道路の北側にはさらに巾員六メートルの道路がある。すなわち、歩行者が右道路を横断しようとすれば、二二メートルの道路を通行する車両の合間を縫うようにして行うことになり、右道路状況及び交通状況よりすれば、歩行者の横断が禁止された場所ないしそれに準ずる場所というべきである。また、被告金子が重久を発見した地点は東側の横断歩道から約五一メートル、衝突地点は約六〇メートルの地点であった。重久は、夜間黒っぽい着衣でこのような幹線道路の横断歩道外を横断しようとし、中央分離帯寄りの車線で被告金子の車両と衝突したものであるから、相当の過失相殺が施されるべきである。
2 逸失利益について
本件事故当時の重久の年齢、稼働状況、同人の直接死因及びその死亡時期よりすれば、同人には再就職の可能性は低いから、原告の逸失利益に関する主張は相当ではない。
3 一部弁済及び損益相殺
被告らは原告らに対し、次の金額合計八七万二五〇一円を支払った。
(一) 治療費 六三万八四八〇円
(二) 雑費 九万八六六八円
(三) メガネ代、ベッド代 一三万五三五三円
原告らは自賠責保険から、二〇二五万円の支払いを受けた。
第三証拠
証拠関係については、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1及び3の事実は当事者間に争いがなく、同6は被告らにおいて争わない。
二 事故の態様、被告金子の過失、過失相殺
本件事故の態様は、請求原因1(五)のとおり、被告金子が加害車両を運転して本件交通事故発生場所の道路を東から西に走行してきたところ、右道路の中央寄り車線を南から北に横断していた重久の右側部に自車の前部を衝突させて跳ね飛ばしたものであるが、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場は、被告が主張するとおり、見通しのよい片側二車線、巾員一六メートル、北側の道路も合わせて車道の巾二二メートル、中央分離帯のある交通頻繁な幹線道路(川崎街道)上で、現場の南側歩道と車道との間には植込みが設置されていること(甲一九、乙一、三)、被告金子が重久を発見した地点は横断歩道から約五一メートル、衝突地点は約六〇メートルの地点であること(乙一)、被告金子は、本件事故現場の手前の交差点で信号待ちをした後青信号に従い発進し、時速四〇キロメートル程度に加速して等速走行を始めたころ重久を発見して急ブレーキをかけたこと、信号に従い交差点を発進した車両のうち加害車両が先頭を切っていたこと、事故発生当時加害車両の左側(南側歩道寄り)車線を走行中の車両も、被告金子の後続車もあったこと(被告金子本人)、事故当時、重久は黒っぽい服を着ていたこと(乙一〇)、以上の各事実が認められる。加えて、加害車両は事故発生当時前照灯を点灯していなかったことも疑われ(乙一二)、一方で、事故現場から被告金子が信号待ちをしていた交差点の信号への見通しもよいものと推認できる。以上を合わせると、被告金子に前方不注視の過失があることは明白で、前照灯を点灯していなかった過失も疑われるが、一方、夜間交通量の多い幹線道路の横断歩道から約六〇メートル程度のところを、川崎街道走行車両の信号が青に変わり、交差点(重久からすれば右方の交差点)で信号待ちをしていた複数の車両が信号が変わって発進してくるのが十分視認できる状況で、右街道を横断した重久の過失も否定しがたく、加害車両の前照灯が点灯していなかったとしてもなお、二五パーセントの過失相殺を施すのが相当である。
三 重久の受傷及び後遺障害
証拠(甲二及び三の各一、二、甲一五、一六、原告長野令子本人)及び弁論の全趣旨によれば、重久は本件事故により急性硬膜下血腫、脳挫傷、外傷性脳内血腫、右足関節脱臼骨折の傷害を負い、合計一一三日間入院し、平成九年五月六日まで通院(うち実通院日数は五七日間、そのうち症状固定日である平成一〇年一月二一日までの通院日数は四七日、それ以後の通院日数は一〇日)したこと、平成一〇年一月二一日症状固定と診断され、脳挫傷の後遺症として記銘力低下、理解力低下を来たし自主的外出が困難であり入浴、外出等に介助を要する状態になったこと、平成一〇年九月はじめ癌が発見されて直ちに入院し、同年一〇月二一日癌性腹膜炎で死亡したこと、重久の後遺障害については、自動車損害賠償責任保険において第三級三号と第一二級五号の併合で第二級相当と判断されたこと、これらの事実が認められる。
四 損害
1 証拠(乙一六の一から五)及び弁論の全趣旨によれば、治療費についてはその七割が医療保険(国民健康保険)により支払われ、自己負担分が六三万八四八〇円であることが推認される。
2 弁論の全趣旨によれば、付添看護費は六七万八〇〇〇円(一日六〇〇〇円×一一三日=六七万八〇〇〇円)、通院付添費は一七万一〇〇〇円(一日三〇〇〇円×五七日=一七万一〇〇〇円)、入通院交通費は二万四四〇〇円(四〇〇円×六一回=二万四四〇〇円)、入院雑費は一四万六九〇〇円(一日一三〇〇円×一一三日=一四万六九〇〇円)、以上合計一〇二万〇三〇〇円と認められる。なお、症状固定後の通院付添の費用は、本来外出介助も含めた後記介護料に含めるべきものであるが、交通費とともに、本項に計上する。
3 休業損害ないし逸失利益
証拠(原告長野令子本人)及び弁論の全趣旨によれば、重久(大正一四年三月九日生)は、平成八年一〇月、自営業(服地販売業)を廃業し、以来在庫整理、販売等を行っていたがそれも縮小しつつあったこと、事故の数年前から原告令子がタクシー運転手として稼働し、生計の相当部分を原告令子の収入におっていたことが認められ、右事実に重久の具体的収入を証するに足りる証拠も再就職の可能性を窺わせる事情も見あたらないことを合わせると、休業損害及び逸失利益は、賃金センサス第一巻第一表の産業計全労働者七二歳の平均年収三六九万九四〇〇円の五〇パーセントを上回るものではないと推認でき、したがって、休業損害及び逸失利益としては、三二三万六九七五円と算定するのが相当である(なお、事故発生時への現価計算はしない。)。
三六九万九四〇〇円×〇・五×二一月÷一二=三二三万六九七五円
4 既発生の介護料
前記三認定の事実によれば、本件事故に起因する傷害の治療や後遺障害の改善目的の通院は平成一〇年五月六日が最終であること、その後の入通院及びそのための付添いは癌治療やそのための検査目的であることが認められ、また、重久の後遺症及びそのための要介助状態の内容は前記三認定のとおりであって、右事実よりすれば、本件交通事故による介護料としては、通院付添費を上回るものではなく、その要介護状態よりして一日あたり二〇〇〇円が相当であると認められる。また、前記2のとおり、症状固定後の通院については、通院付添費として計上されているので、本項からは控除するのが相当である。
二〇〇〇円×(一六八-一〇)日=三一万六〇〇〇円
5 慰謝料
入通院状況については前記認定のとおり、入院日数一一三日、通院月数のべ一一・五月(うち実通院日数五七日)、そのうち症状固定後の通院は三・五ヶ月(うち実通院日数一〇日)であるから、入通院慰謝料としては、二二五万円が相当である。
後遺障害は前記三認定のとおり併合二級であり、かりに本件事故に遭わなければ適切な癌治療を受けて延命が可能であったかもしれないとの無念の思いその他の被害感情や、自賠責保険金の支払いまでに発生した遅延損害金も考え併せ、後遺障害に対する慰謝料としては、二二〇〇万円を相当とする。
6 原告令子の休業損害
同原告については、弁論の全趣旨によれば、重久の付添いや看護のため休業を余儀なくされ、ために平成九年の年収は平成八年のそれに比して一三八万二六〇九円の減収となっていることが窺える。ただし、右減収部分のうち、付添費、介護料として計上されている部分は控除すべきであるし、重久の癌判明後の休業部分のうち相当部分も本件事故との因果関係がないからこれも控除されるべきであるが、一方、重久の付添い、看護については他の原告らも分担したことが容易に推認でき、以上よりして、休業損害のうち癌治療に起因する部分と、原告令子以外の他の原告らの付添い看護費はともに考慮しないことにし、したがって、原告令子の休業損害は、本件事故後重久死亡までの減収分から前記付添費、介護料として計上されている部分を除いた金額と算定するのが相当である。
二五三万四七八九円-(六七万八〇〇〇円+一七万一〇〇〇円+三一万六〇〇〇円)=一三六万九七八九円
7 原告らの固有の慰謝料
重久の傷害、後遺障害に対する慰謝料は、癌治療が十分にできなかったとの悔恨や憤怒、その他の被害感情も含め、重久本人に対する慰謝料として評価し尽くされており、さらに原告らにつき固有の尉謝料を認めるべき特別な事情は窺えない。原告らが重久の死亡により精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるが、右苦痛をも本件事故と因果関係ある損害として被告らに損害賠償を求めるのはあたらない。
8 弁護士費用 一五〇万円
以上のとおり、重久の損害としては治療費を除き、2から5までの合計二八八二万三二七五円、原告令子固有の損害としては6の一三六万九七八九円、合計三〇一九万三〇六四円となるが、後記のとおり、自賠責から二〇二五万円が支払われていることを考慮すると、弁護士費用としては一五〇万円が相当である。よって、治療費を除く原告らの損害の合計は三一六九万三〇六四円となる。
五 過失相殺及び損益相殺
治療費以外の右損害額に前記のとおり二五パーセントの過失相殺を施すと、二三七六万九七九八円(重久の損害二一六一万七四五六円、原告令子固有の損害一〇二万七三四二円、弁護士費用一一二万五〇〇〇円)となる。
治療費については、医療保険により支払われた七割分については被告らが求償を受けて支払うべきであり、残三割分(六三万八四八〇円)のうち二割五分相当分は過失相殺により原告らの負担に帰すべきであるから、結局残五分が被告らに請求すべき損害となる。
六三万八四八〇円×五/三〇=一〇万六四一三円
よって、重久の固有の損害額は合計二一七二万三八六九円、損害の総合計額は二三八七万六二一一円となる。
二三七六万九七九八円+一〇万六四一三円=二三八七万六二一一円
原告らが自賠責保険より二〇二五万円、被告らより八七万二五〇一円を受領済みであることは明らかであり、右はいずれもその趣旨よりして重久固有の損害の填補として充当されるべきであるから、残額は重久の損害六〇万一三六八円、原告令子固有の損害一〇二万七三四二円、弁護士費用一一二万五〇〇〇円合計二七五万三七一〇円となる。
六 まとめ
よって、原告令子の損害は、重久の損害と弁護士費用の合計一七二万六三六八円の二分の一に固有の損害を加えた一八九万〇五二六円、その余の原告らの損害は、右一七二万六三六八円の六分の一の二八万七七二八円となる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 中山節子)